第十八話「ベルセリオンの戦い方」第十八話「ベルセリオンの戦い方」中国に辿り着いた旅客機からハイジャック犯五人が連行されていく。彼らはいずれもタンコブが出来上がっており、どれだけ乗客の皆さんにこっぴどい目にあったのかを容易に想像する事が出来る。 「それにしても……なんかすっげー疲れた」 空港のトイレの中でエリックと狂夜は溜息をつきながら手を洗っていた。狂夜に関しては初めての海外がこんなんなんだから同情できる。 「所で、これからどうするのさ?」 「うーん、ノモアがいるっつー場所まではかなり時間がかかるし、犯行予告までかなり時間がある……となりゃ、やる事は一つ!」 エリックが自信満々に言うと、狂夜は興味津々な顔で聞いてきた。 「で、結局何?」 「チャイナドレぇースのきれーなお姉さんを見つけてぇ! それをモデルにフィギュアを作る!」 それを聞いたと同時、狂夜は『ずだーん』と激しい音を立てながら倒れこんだ。 「……あのさぁ、エリック。君は二次元の女の子にしか興味ないんじゃないの?」 それもかなりやばい話題なのだが、生憎エリックはそういう人種である。 「馬鹿野郎! 俺の趣味を簡単に挙げるならば盗みとギャルゲーとフィギュア作りと特撮とアニメだぁ! こいつ等を取ったら俺に生きる希望は無い! 確かに俺はリアルの女の子には興味は無い! が、しかぁしぃ! 俺の心の中で生きるマイスウィートハニーのチャイナドレス版を作るためにはやはりリアルのチャイナドレスを見るしかないわけだ! それもこの目で、直々に!」 自信満々で言うあたり凄いと思う。と言うか、公共の場であるトイレで何叫んでるんだこの男。 しかし、次の瞬間。エリックと狂夜の顔つきが一瞬にして真剣な物に変わる。何故なら、彼ら二人は感じ取ってしまったからだ。 (最終兵器の波動……!) だが、それはこの二人ではない別の誰かの物である。もしかしたらネルソン警部か、と思ったが、彼は団長達を直々に連行しているので違う。 では一体誰? そんな二人の疑問に答える人物はいない。しかし、この時の二人は知らなかった。彼らがいるトイレの目の前をグレーのコートの男が通り過ぎたことを、だ。 そしてその男は日本行きのチケットを力強く握り締めていたが、それに気付く者はいない。 京都の山の中、マーティオとネオンは神谷家で朝食をとっていた。しかし、早速此処でネオンが凄まじい光景を見せてくれている。 「………」 物凄いスピードで茶碗の米を喉に流し込んでいくネオン。まるで滝のようだ。そして飲み込んだと同時、彼女は何事も無かったかのように茶碗を慎也の前に差し出した。 「………おかわり」 この台詞を聞くのは朝だけで10回以上はある。まるで何処かの戦闘民族、もしくはフードチャンプだ。 「………」 そしてこの光景を見てマーティオは思った。 最終兵器と融合すると異様に腹が減るのか、と。恐らくはエネルギー消費とかの問題で多くの飯を食べなければならないのだろう。 「………ところで、あんたこれからどうするの?」 そこで、棗が睨みながらマーティオに問うた。 「そうだな、サイズが奪われちまったからには俺様にはどうする事も出来ん。仮に奴がいる場所を見つけ出したとしても、対抗策が無いんだからな」 その時、マーティオの拳は確かに震えていた。どうやらまだ猛に敗れた時の事を気にしているのだろう。 (無理しちゃって) それを見た棗を思わずそう思ったのだが、負けず嫌いのマーティオには敢えて言わなかった。 「ま、暫らくは修行だな。……サイズ無しで戦わなきゃならないんだから」 そう、この男はあの猛に逆襲したくて逆襲したくて堪らないのだ。可能ならば今すぐあの男の下へといって屈辱を何百倍にもして返したいと言うのが本心だろう。 しかし今のままでは勝つ事は出来ない。何せ、巨大ロボを持ち出しても負けてしまったのだ。 「―――――」 「ん? 何か言った?」 「いや、なんでもない」 あまりにも小さな声で呟いたが為に向かいの席に座る棗にはマーティオの声が聞こえる事が無い。だが、彼の隣に座るネオンは確かに聞こえた。 (………昔に戻る?) 朝食が終わってからマーティオとネオンはすぐに神谷家を出て行った。朝にマーティオが言っていた修行と言う奴だ。今の神谷家には慎也と棗の親子だけがいる。 「……父上、あいつどうすると思う?」 「さあ、それは分らない。しかしベルセリオン殿は遅かれ早かれ此処から出て行くだろう」 だろうな、と棗は思った。 彼には仲間がいるのだ。少なくともその仲間を探しに行くだろう。 「んじゃ、一丁あの馬鹿の修行にでも付き合ってあげますかね。こっちの修行も兼ねて」 そう言うと棗は家のドアから勢いよく外へと飛び出した。 しかし次の瞬間。棗の視界は見慣れないものを見つけた。グレーのコートに身を包んだ銀髪の男である。そしてその男と眼が会った瞬間、棗は全身が凍りつくような冷たい感覚を覚えた。 「やあ」 棗は男に話し掛けられた瞬間、はっと我に帰った。その後すぐに思い浮かんだのは何故この村に見知らぬ男がいるのか、という疑問である。 「誰!?」 彼女は素早く短刀を抜くと、それを男に向ける。しかし男はこれにビビる様子など全く無い。 「何、ただの旅人だよ。気の向くままに旅をしては人を訪ねるのさ」 「人を……訪ねる?」 と、言う事はつまり人探しと言う事だろうか。 「折角会いたい奴に会えると思って此処まで足を運んだのだが……どうやら入れ違いで彼は外出してしまったようだ。では、失礼する」 そう言うと男は回れ右をして森の中へと歩を進める。 そして棗はただそれを黙ってみている事しか出来なかった。何故なら、足が震えて動けないからだ。蛇に睨まれた蛙とはこの事である。 (何……何なのあいつ!?) まるで全身が麻痺したかのように棗の身体は動かない。そしてそれは全てあの銀髪の男と目が合ってしまったせいなのだ。 村からかなり離れた森の中。マーティオとネオンはある意味恐ろしい訓練をしていた。いや、正確に言えばネオンはつき合わされているのだ。 その訓練とはなんとリーサル・アローの光の矢を至近距離で避けると言う物であった。マーティオからしてみれば反射神経を鍛える為の荒修行のつもりなんだろうが、流石に命が幾つあったとしても足りはしない。 なので、彼はネオンに命中しても怪我の無いような矢でかかってくるように、と言った。そしてネオンはその条件を飲んだのである。 「………結果、100本中回避成功したのは42本」 休憩時間中にネオンは呟くような小さな声でマーティオに報告する。そしてマーティオはその結果に対して舌打ちをした。 「………半分も成功してないのか」 つまり、実戦ならば58回死んでいる事になる。これでは猛相手に1分も持ちはしないだろう。 「クソ! これじゃああいつ等に会う顔が無いぜ……!」 彼は悔しさのあまり木に拳を叩き込む。 だがそれと同時、何処からか聞きなれない声が聞こえてきた。 「自然に八つ当たりか。余程悔しい思いをしたと見るね」 突然聞こえてきたその声の主に思わずマーティオは反応する。 「誰だ!?」 振り向くと、そこにはグレーのコートに身を包んだ銀髪の男がいた。そしてその男の瞳は氷のような冷たい物を感じる事が出来る。 そして男は意外そうな顔をしてマーティオを見た。 「誰? ………そうか、君はまだなのか」 意味不明な事を呟く男の出現によってマーティオの苛立ちは更にヒートアップしていく。 「おい、俺様の質問に答えろ!」 マーティオの叫びに思わず隣にいるネオンはびくり、と震え上がってしまうのだが、男は何事もなかったかのようにしてその問いに答えた。 「俺の名か? 俺の名前はバルギルド・Z。君に会いにやって来たのさ、マーティオ・S・ベルセリオン」 「俺に会いに来ただと? 何の為にだ?」 すると、バルギルドは呆れたような顔でマーティオの隣にいるネオンを見た。 「そこの娘なら大体は見当がつくんじゃないのか。そうだろう、リーサル・アロー」 「!」 その言葉に思わず二人は反応した。 その理由は一つ、何故この男はネオンがアローだと分ったのか、である。 「………貴方、最終兵器の所持者?」 次にネオンが放った言葉でマーティオの全身に衝撃が走った。 自分達以外の最終兵器の所持者と言う事はイシュのメンバーの他ならないからだ。つまり、この男は最終兵器関連の話題でやって来たと言う事だろう。 「所持者………か。ちょっと違うがそんなところだろう」 さて、とバルギルドは前置きを入れて二人を睨む。 「がっかりだよマーティオ。君がサイズの所持者になったと聞いてきてみれば既にブレードの持ち主に奪われていると来た。これじゃあ君の仲間たちは失望するだろうね」 まるで全てを見透かしたかのような目でバルギルドは言う。そしてそれはズバリマーティオの心を見透かしていた。 「貴様……何故そのことを知っている!」 大体にして猛との戦いの時はこんな男はいなかったはず。それなのに何故この男は今までの出来事を知っているのだろうか。 (しかも俺様がサイズの所持者だと知っていやがる……!) 更には名前まで正確に知られているのだから余計に頭が混乱する。 「さあ……何故だろうねぇ、マーティオ。もしくは怪盗イオかドクターイオとでも呼んだ方がいいか?」 「!!!!!!?」 決定的だった。バルギルドはマーティオの全てを見透かしている。何せ、知り合い以外が知るはずが無い自分の仮の名を知っているのだから。 「……ドクターイオ?」 其処でネオンは疑問詞を上げた。怪盗イオは前にマーティオ本人から聞いたことがあるから分るが、ドクターイオなんて聞いたことが無い。 「……昔の俺の異名だ。裏社会で医者やってたからな」 だがそれは本当に昔の話である。エリック達と別れてオーストラリアに住み着いたマーティオはある闇医者の世話になっていた。その男の手伝いをしていくうちに次第に医者としての知識が見についていき、次第にドクターイオの異名がついたわけである。この異名から分るとおり、怪盗イオのイオはこの異名から来ているのだ。 因みに、医者と言ってもあくまで知識があるだけで免許は持っていない。それで何故ドクターの異名がついたのかと言われればそれまでなのだが、そこらの不正をする医者よりもいい仕事をするので当てはめてもいいだろう。 しかし此処で問題なのは兄弟弟子関係であるエリックですら知らないこの事実を本日初対面であるバルギルドが知っていると言う事である。 自慢にもならないが、怪盗イオに比べてドクターイオの異名は有名ではない。むしろ知っている奴が珍しいほどだ。 「テメーどこまで知っていやがる……!」 此処まで来たらバルギルドに不気味ささえ感じられる。これじゃあストーカーが可愛く見えてきてしまう。 「何、風の噂だよ」 ゼッテー嘘だ、とマーティオは思った。 「で、結局貴様は何が言いたいわけだ?」 かなり話が脱線したが、此処でマーティオは流れを元に戻す。 「何、簡単だよマーティオ。さっきも言ったとおり君に会いに来た、それだけだ」 「は?」 思わずマヌケな顔でマーティオは返す。最終兵器関連の話題なのかと思っていたからまさか自分目当てだとは思ってなかったからだ。 「しかし来て見れば君はサイズを奪われ、やる必要の無い修行までやろうとしていたからね………正直失望しているよ」 「やる必要が無い?」 それはどういう意味だろうか。あの猛の力は絶大な物だ。それに対抗するにはやはり今からでも強くなる事以外には無いと思う。 「そう、必要はない。何故なら君はもうレベル4を扱えるレベルに到達しているからだ」 「!」 レベル4と言われてマーティオは反応した。それはあの猛が圧倒的な力をもってして駆使した物だ。そしてその力の絶大さを彼は知っている。 「……あの力を俺様が使える?」 しかし次の瞬間、マーティオはけ、と吐き捨てた。 「んなはずねぇだろうが。使えるならサイズはあの時応えてくれていた筈。だがあの時はサイズのコーリングが精一杯、これでも使えるって言えるのかい?」 その問いに、バルギルドは呆れたように言う。 「使える。そして今まで君がレベル4を扱えなかった理由はずばり君の戦い方にある」 「戦い方……?」 実の話、マーティオはそんなの意識してはいない。その場で使えるものを使う主義で、これだけを使うと言う拘りがない奴なのだ。 「そう、君は本気を出していないだろう」 その言葉がバルギルドの口から発せられたと同時、マーティオは全身に電流が走るかのような感覚を憶えた。 「なん、だと?」 「そのまんまだよ。君は本気を出していない。……いや、長年余りにも周りが雑魚過ぎたせいで次第に本気を出せなくなっているんだ」 まさか、とマーティオは思ったが、それを打ち崩すかのようにしてバルギルドが人差し指を彼に向けてきた。 まるで暗示しただけで彼の足元を崩してしまいそうな、そんな寒気がバルギルドから発せられている。 「そして自然と闘い方にも出てきている。―――――例えば相手に合わせてスピードを落としたり、わざと急所を外したりとそんな具合だ。君は自身を楽しませる為にわざと雑魚にレベルを合わせ、そしてその雑魚レベルに自然と溶け込んでしまったわけだ」 それの一番の恐ろしさはやはり本人の自覚が無い事だろうか。勿論最初は意識していたのだろうがそれが自然となくなって行き、次第に身体がそのレベルに落ち着いてしまったのだ。 「そしてそれは君なりに自覚していた事じゃ無いかな? 少なくとも君は昔より弱くなったと思っている」 「!」 図星だった。エリックと再会してから、サイボーグ刑事や宇宙人、更にはあの猛と言った強敵たちと出会う度にそれを痛感していたと言う事実が彼にはあった。 「詰まり、君は本気を出せば何時でもレベル4を扱える次元に到達している。君の仲間はどうかは知らないが、少なくとも君はそうだろうね」 そして、と続かせながらバルギルドはマーティオを睨んだ。 「だから、俺にお前の本気を見せてみろ。このバルギルド・Zにお前の力をぶつけて来い!」 そう言うと同時、バルギルドの人差し指からどういうわけか紫電が溢れ出す。それは真っ直ぐにマーティオとネオンへと向かっていき、彼らに容赦無用で襲い掛かる。 「!」 それを見たマーティオは思わず舌打ちをしながらもネオンの細い右腕を引っ張って左に跳躍する。 それと同時、先ほどまで彼らがいた場所が爆発を起こした。そしてそれはバルギルドが起こした紫電による物である事は明白だった。 「ちぃ、奴の最終兵器か!?」 回避したマーティオはバルギルドを見る。 しかし其処で先ほどの言葉を否定する光景を見た。バルギルドは最終兵器を『持っていない』のである。 「―――――!」 そして次の瞬間、バルギルドは一瞬にしてマーティオの目の前まで移動してきた。その移動手段は他ならぬダッシュなのだが、問題なのはそのスピードを眼で捕らえる事ができない事である。 「ぶっ飛べ」 バルギルドが不気味に囁くと同時、マーティオは見えない強力な力によって簡単にぶっ飛ばされてしまう。 「が―――――!」 そのまま木にぶつかったマーティオは思わず口内から込み上げてくる物を我慢できずに吐き出してしまうのだが、それでも頭は回転している。 (どうなっていやがる、コイツも最終兵器と融合した人間なのか!?) しかしバルギルドはそんな問いに答えてくれる親切な人じゃなかった。 「どうした? 早く本気を出さないと死ぬ事になるぞ?」 まるで瞬間移動でもしたかのようなスピードでバルギルドが迫る。次の彼の攻撃手段は残像が残るスピードで繰り出される回し蹴りである。 「!」 そしてその攻撃の前にマーティオは瞬時に反応していた。一瞬で跳躍して回し蹴りを回避する。先ほどとは明らかに動きが違う。徐々に動きが速くなってきているのだ。 (まだだ! まだそんな物じゃ無いだろう!) バルギルドはこの出来事に満足そうな笑みを浮かべたと同時、更に攻撃を仕掛けてくる。マーティオを少しずつ追い詰めれば追い詰めるほど、彼は本来の力を徐々に取り戻していっているからだ。 猛のときは圧倒的なパワーの前に敢え無く敗れはしたが、バルギルドの場合はあくまで実力を引き出す為の物だ。そしてその効果が徐々に効いていっている。 「くっそ!」 マーティオはナイフを構えながら反撃の隙を伺うが、それでも避けるのが精一杯の状態だ。何故なら、バルギルドは自分から負けてやるつもりなんて一切無いからだ。詰まり、実力では圧倒的にバルギルドが勝っているわけである。 例えマーティオが本気の本気を出したとしてもそれは変わらないだろう。 「どうしたどうした! これでも俺は実力の20%も出していないぞ!」 その言葉に嘘は無かった。 そしてそれを肌で感じ取ったマーティオは攻撃を紙一重で避けながら思う。 (コイツ、猛よりも強い!) 今まで自分が出会った奴の中で一番強いと肌で感じる事が出来た猛。しかしその猛よりも、このバルギルド・Zは住んでいる世界が違うのだ。 まるで今までの強敵が赤子に見えるかのように。 そんなことを考えていると、バルギルドの連蹴りのスピードが一気に上がった。それは先ほどまで紙一重で避けていたマーティオの頬を軽く裂くほどのスピードとパワーを秘めている。直撃を食らったらひとたまりも無い。 「こいつが25%ってとこだな!」 まるで槍の突きの様な蹴りを放ってくるバルギルドの前にマーティオは防戦一方だ。しかし其処でマーティオの視界は確かに捉えた。 バルギルドの背後で彼に狙いを定めようとしているネオンの姿を、だ。だがネオンは矢を放てずにいた。その理由は、 (……速い!) 思わずぎり、と歯を噛み締める程に、バルギルドのスピードが異常すぎるのだ。その為、正確に狙いを定める事が出来ないのである。 そして更に脅威なのはバルギルドはそんなスピードを出すのに実力の四分の一しか使っていない事である。これで全力を出したときは一体どんな化物になると言うのだろうか。 更に恐ろしい事に、彼が今行っている攻撃は最終兵器による常識を覆した攻撃ではなく、ただの蹴りと言う事にある。 (洒落にならん……!) だが、そんなバルギルドを一瞬でも止める手段をマーティオは考え付いた。それは余りにも悪戯小僧並の発想なのだが、この男は手段を選ぶような男じゃ無い。 (勝負は一瞬!) バルギルドの足が槍の様に腹部目掛けて飛んでくる。しかし次の瞬間、マーティオの右手が凄まじいスピードでそれを絡め取った。 マーティオはバルギルドの突きにも似た蹴りを右手で掴んだのだ。まるで蛇のように絡めたそれは決してバルギルドの足を離そうとはしない。 「つーかまーえた」 マーティオは悪戯っぽく笑って見せると、ロングコートの中からある物を取り出した。それはあくまでエリックへの嫌がらせ用に準備していた代物、水鉄砲である。勿論、中身は何時でも使えるように水で満たされている。 そして次の瞬間、マーティオは躊躇いも無くそれの引き金を引いた。 その銃口から発射されるのはただの水である。だがその水の行く先にあるのは意表を突かれたバルギルドの鼻だ。 「ふご!?」 水が思いっきり鼻の中に侵入してしまった為に思わずバルギルドは体勢を崩してしまう。そしてマーティオにはそれだけで十分だった。 「生憎、俺は何時も何かを携帯している主義でね!」 次の瞬間、マーティオは高速のスピードでバルギルドの胸を切裂いた。その切り裂いた物はドクターの異名に相応しいメスである。 そのまま彼は転がりながらもバルギルドの後方へと回る。 「どうだ!」 マーティオは自信満々の顔でバルギルドへと振り返る。何せ、確かに切り裂いた感触はあったし、何より胸を切裂かれてはあの驚異的な攻撃は出来ない。 だが、 「いや、効いたよ。それにしても水鉄砲を携帯しているとは思いもしなかった」 バルギルドは回れ右でマーティオに振り返る。すると其処にはどういうわけか切られた痕跡のみがあり、全く傷を負っていない光景があった。 「な―――――!」 馬鹿な。確かに切り裂いた感触はあったし、何よりメスには血が残っている。それなのに何故あの銀髪の男はノーダメージなのだろうか。 いや、先ほどの会話を聞く限りだとダメージを与えた事には違いない。詰まり再生したのだ。しかもそれこそ一瞬で切り傷を塞ぐレベルの回復である。 「いいねぇ、その顔。その驚いた顔は嫌いじゃ無い」 不気味に笑いながらバルギルドは歩を進めてくる。 しかし次の瞬間、彼の口から意外な言葉が発せられた。 「成る程、今のスピードを見る限りでは十分合格レベルだろう。サイズはこの山より東にある『平和の塔』にある。では、さらばだ」 それだけ言うと、バルギルドはマーティオの横をさも当然のように通り過ぎていった。突然のことで呆気に取られてしまったマーティオとネオンだが、次の瞬間ふと我に帰ってバルギルドに問う。 「待てこの野郎! てめぇ一体何の目的でこんな事を……!」 「言っただろう、今回はあくまで君の実力を見ることが目的だ、と。それ以上でも無ければ以下でもない。そして俺は影ながら君を応援している者なんでね」 最後の言葉に思わずマーティオは反応する。この男がネオンの言ったとおり最終兵器の所持者だとしたらどう考えてもイシュ側の人間のはずだ。それなのに何故サイズの在処を知らせるような真似をするのだろうか。 「貴様イシュのメンバーじゃ無いのか!?」 「イシュ……? 違うね。俺は他人に従うのは大嫌いなタイプだ。そんな組織なんかに入るもんか」 それだけ言うと、バルギルドは森の中に消え去ってしまった。 その場に残されたマーティオとネオンに新たな疑問を植え付けたまま。 続く 次回予告 エリック「ども、エリック・サーファイスです」 狂夜「切咲・狂夜(眼鏡バージョン)です」 エリック「なあキョーヤ、俺達最近地味じゃねぇか?」 狂夜「それ言ったら終わりだよ。確かに最近はネルソン警部や濃い新キャラが立て続けに登場しちゃう始末だからねぇ」 エリック「さて、そんな俺達だがあのノモアに会う為に中国の小さな病院に向かっている最中だ!」 狂夜「イシュの天才科学者……今は病だと聞いているけどそこら辺どうなんだろうね?」 エリック「けっ! 例え鬼が出ようが蛇が出ようが俺とランスと心のスィートハニーさえ居れば恐い物なし!」 狂夜「なーんか今凄まじい単語が入っていたような……」 エリック「次回、『イシュの天才科学者』!」 狂夜「どうぞお楽しみに~……出来れば本来主人公が彼だってことを思い出してあげてください」 エリック「ちょっと待てテメェ!」 第十九話へ ジャンル別一覧
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